楊戩と哪吒のあれこれ

 

WJベースの楊戩哪吒の二次創作を時系列順にまとめます。

本編:全27話  番外編:5話

 

WJ本編中 蓬莱島編 同棲編 番外編

 

工事中 2024.11.16




WJ本編中

▼01 決戦前

 崑崙と金鰲が落ち、多大な犠牲を払った仙界大戦はついに収束した。
 それからしばらくが経ち、金光聖母との戦いで四肢を失った哪吒は太乙の修理と改造を受け、調子を取り戻しつつあった。これはそんな矢先の出来事である。
「楊戩、少しいいかい?」
「太乙真人さま?いかがなさいましたか」
「その…哪吒がここに来なかったかと思って」
「哪吒が?」
 進軍の準備で忙しくしていた楊戩は深夜でも煌々と灯をつけ、テント内で何やら仕事をしていた。そこに入って来た太乙は薄暗いテントの中であることを差し置いても顔色が良いようには見えない。
 それも当然のはず。つい先日の戦いで永い付き合いの友人たちである崑崙十二仙のうち十仙が封神されてしまったのだ。表情にこそ出さずともその精神的ショックは相当な物であり、それを誤魔化すかのように日夜哪吒の修理に明け暮れていたとあっては顔色も悪くなる。そして更に、今度はその哪吒がいなくなったらしい。
「どこかへ行ってしまったのですか?」
「ああ…私が余計な事を言ったんだ」
 太乙は他を探しに行こうと足に力を入れたつもりだったが、楊戩の顔を見て気が緩んだのかへなへなとその場に座り込んでしまった。

「太乙真人さま!」
「大丈夫、ごめん」
 楊戩に抱え起こされて椅子に腰掛ける。一度弱みを見せてしまえばもう強がることは難しい。太乙は深いため息を吐き両手で顔を覆い隠した。

「……ちょっと、疲れたみたいだ」
「色々ありましたから」
 悲しさ、悔しさ、情けなさ、寂しさ……。
 その気持ちは師を喪った楊戩にも痛いほど分かった。しかし気を落としている暇さえないのだ。殷と周の戦いはここからが本番なのだから。
「僕が哪吒を探して来ます」

 ちょうど外の空気でも吸おうかと思っていたのだと言って楊戩はテントを出た。哮天犬に哪吒のニオイを追わせると、宿営地からそう遠くない岩山の上で月を眺めている背中を見つけることができた。
「哪吒」
 その隣に腰を下ろし名を呼べば哪吒は既にその気配に気付いていたらしく、平然と前を向いたままぽつりと独り言のように口を開いた。
「太乙真人が」
 言い淀むが、楊戩は先を急かす事もなく何も言わずに並んで月を見上げていた。
「……自分だけが、生き残ってしまったと云《い》った」
 まだ多くの言葉を知らず自分の気持ちを上手く言語化する事が出来ない哪吒はそう言うのが今の精一杯だった。
 自分だけ……太乙はその瞬間、哪吒を修理していながら完全に孤独だった。そして、十二仙が命を賭けて戦っている間、戦うために作ったハズの宝貝人間は壊れて動けなかった。……哪吒には、そう言われたようにさえ感じられた。
 つまり、太乙が思わず呟いたその言葉に深く傷つき、無意識に自分を責めたのだ。

 崑崙十二仙という絆が特別なものである事は哪吒も分かっている。太乙が哪吒の存在を蔑《ないがし》ろにしたわけでも責めるつもりでもなく、ただただ深い悲しみからその言葉を発したという事も頭では分かっている。しかし気持ちがついてこなかった。
 楊戩はそっと手を伸ばし肩を引き寄せた。哪吒は特に抵抗もせず二人は肩を並べて座る形になり、フワリと優しい蓮の花の香りに包まれる。今はどんな慰めの言葉も薄っぺらく感じてしまう。玉鼎の死から立ち直れていないのは楊戩も同じなのだ。しかし次に続けられた言葉に思わず息を呑んだ。
「替えのきく宝貝人間が戦いに行くべきだったんだ」
「哪吒!」
 大きな声に驚いたように哪吒は楊戩を見た。
「なぜ、お前が泣きそうな顔をする」
「……」
 こんな時に上手く言葉が出てこない自分が不甲斐ない。太公望師叔ならなんと言うだろうか。楊戩は苦しそうに眉を顰《ひそ》め、唇を噛み締めて哪吒の肩に置いた手に力を籠めた。少し震えていたかもしれない。
 そうしてしばらくの沈黙のあと、努《つと》めて冷静に言い聞かせるように言葉を発する。
「君の代わりなんていない」
「オレは戦う為に……」
「造られた理由が何でも、哪吒に替えがいない事を否定する材料にはならない」
 出会った時から相変わらず好戦的で、力任せで、人の言う事など聞かない哪吒。だがそれでも最近では、名を呼んで視線を交えれば自然と連携も取れるようになり、更には傷ついた仲間を守ろうとするようにもなった。
 魂魄を持たない宝貝人間だなんて有り得ない。その霊珠には間違いなく、唯一無二の魂魄が宿っているのを感じる。そんな事を抜きにしても、哪吒はもう既に楊戩にとってかけがえのない仲間の内の一人なのである。
「……ムズカしい言葉を使うな」
 これ以上、どう伝えればいいのだろうか。楊戩は自分の中に渦巻く様々な感情を今この場で如何《いか》に簡潔に説明するべきか悩んだ。
「哪吒が、大事なんだ」
「大事?」
「玉鼎師匠も太乙真人さまも師叔も、哪吒も……みんな同じだけ大切な存在なんだ。誰かの代わりに犠牲になるべき者なんていない」
 そう言うと夜風に当たりひんやりと冷たくなっている哪吒の肩をグイと抱き寄せ正面から抱きしめた。小さな体はスッポリと腕の中に収まり、嫌がるかと思った予想に反しておとなしい。
「だから、二度と自分を傷付けるような事を言わないで」
「……ム」
 うまく伝わっただろうか。そう思いながら楊戩は少しでも哪吒の心が楽になれば良いと柔らかな赤毛を優しく撫でた。
 ーーそうか。オレは、傷付いていたのか。
 その言葉がストンと哪吒の胸に落ちて、うまく言葉に出来ずただモヤモヤしていた感情が、今度はズキズキと痛みを伴った悲しみに変化するのを感じた。そして楊戩の腕の中に包まれたまま、哪吒がポツリと何か言った。
「……オレも」
「ん?」
 小さく呟かれた声を聞き逃した楊戩が反射的に体を離そうとすると、反対に哪吒はその背に手を回して胸元に顔を押し当てたまま、少し声を大きくして言い直した。
「オレも、お前が大事だ」
 ーー母上以外に守りたいモノなど無かった。自分自身さえ壊れようが、無くなろうが、どうでも良かった。
 しかし太公望に出会い、太乙に教育され、目的を同じとする者らと道を共にする中で、それが少しずつ変わっていくのを感じていた。守りたいモノは弱点だ。増えるほどに、動けなくなっていく。荷物は少ない方が良いに決まっている。それなのに……。
「あの時」
 哪吒は金鰲島で弱々しいニオイを発している楊戩を放っておけなかった。十天君との戦いで瀕死に陥《おちい》った楊戩を見て、自らが傷つけられた時以上に腹の底から怒りが湧いた。それと同時に楊戩がこのまま封神されて《しんで》しまうのではないかと、本当は不安でたまらない気持ちになったのだ。
「お前が……生きていて良かったと思った」
 言葉に出す事で無意識にずっと張り詰めていた様々な感情が一気に溢れてしまったのか、そう口にするのと同時に楊戩の膝にポタリと涙が落ちた。背に回された手に力が篭るのを感じた楊戩は堪らなくなり、思わず溢れ出しそうになった感情を誤魔化すように哪吒を再び強く抱きしめた。
「……苦しい」
「っあ、ごめん」
 体を離すとその目にはもう涙はなかった。
「ジロジロ見るな」
 少し感情を晒して調子が戻ったのか、哪吒は楊戩を押し返して立ち上がる。
「変な所を見せた」
「待って哪吒」
「もう寝る」
「少しだけ」
 待って、と再び言いながら楊戩が立ち去ろうとする腕を掴むと、哪吒はいつもの無表情でじっと見つめ返してきた。これ以上弱みを見せたくないのか、楊戩が掴んでいる手は硬く握り締められ、感情を隠しているようにも見える。
「…また傷付くような事があったら、ひとりで抱え込まないで、僕に教えて」
「お前には関係のない事だ」
「関係あるさ。僕がそう望んだ時点で」
 もう無関係ではいられないんだよ、と呟く。
 楊戩は交わった視線を逸らさずに話し続ける。そして哪吒の手に触れて、強く握られた拳を包むように両手を添えた。
「傷付いたり悲しくなったり……苦しい時は頼って欲しい」
 少し力が緩められたのを見逃さずに楊戩は哪吒の手に指を絡ませる。哪吒は突然感じた他人の体温に思わずピクリと反応したが、抵抗はしなかった。
「……哪吒が弱みを見せる相手は、僕がいい」
「オレは誰にも弱みなど見せん」
「さっき泣いてたじゃないか」
「ヨダレが落ちたんだ」
「汚いなぁ!」
 思わず楊戩が笑うと同時に、相変わらず無表情ではあるが哪吒の纏う空気もどこか和《やわ》らいだような気配があった。そしてスルリと楊戩から離れると余韻もなく立ち上がる。
「もう寝る」
「そうだね、太乙真人さまが心配してるよ」
「わかっている」
 ちゃんと分かっていたのか、と楊戩は苦笑した。分かっていても不用意な発言に傷付く事はあるものだ。そんな所も、あまりに人間らしいではないか。
「そういう時こそ、怒ればいいのに」
「ム」
 指摘されて初めて気付いたように哪吒は口籠もると、気恥ずかしさを誤魔化すように不機嫌な顔で宿営地へ向かって飛び立った。
 見ればこちらに気付いていたのか宿営地の門に太乙が佇んでいる。いつから見ていたのか……楊戩は少々冷や汗を浮かべたが、妬いた太乙に二、三の小言を言われようが甘んじて受け入れよう。
 それくらい、哪吒が自分に少しでも心を開いて見せてくれた事が嬉しかった。

▼02 気まぐれな邂逅

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▼03 離郷

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蓬莱島編

▼04 道士、蓬莱に戯れる事

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▼05 押してダメなら

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▼06

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▼07

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▼08

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▼09

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▼10

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▼11

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▼12

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▼13

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▼14

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▼15

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▼16

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▼17

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同棲編

▼18

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▼19

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▼20

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▼21

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▼22

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▼23

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▼24

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▼25

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▼26

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▼27

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番外編

▼2021年 哪吒 生誕

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▼2024年 楊戩&雷震子 生誕

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▼2024年 哪吒 生誕

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▼SS 誕生の証

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▼甜蜜

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